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パティシエと職人の素顔

パティシエと職人の素顔 和菓子編11 梅花亭

井上豪さん

いのうえ たけし

<井上豪さん経歴>

1935年 初代が亀戸にて「梅花亭」を創業。
1947年頃 戦争中に閉鎖していた店を池袋で再開。
1971年 東京都豊島区池袋にて、2代目の長男として誕生。
1994年 和光大学芸術学科卒業後、梅花亭に入社。
1995年4月
〜97年3月
東京製菓学校和菓子専科で学ぶ。
1999年 有楽町店オープン
2004年 矢来口店オープン
2008年
5月30日
神楽坂本店をオープン

本店を池袋から神楽坂に移した理由は?

「梅花亭」は1935年に祖父が亀戸で創業し、戦後になって池袋に移転しました。それからずっと池袋を本拠地にしていたんですが、バブルを境に池袋の商店街がどんどんビル化して、人の住まない町になってしまったんです。この先、何十年かを考えると、私が4代目として商売を続けていけるかどうか。そこをよく考えて、新しい移転先を探したんです。

井上豪さん この場所を見つけるまで都内をずいぶん歩きました。和菓子の業界はみんな仲がいいので、近くに店舗を出すわけにもいきません。そんな時、この神楽坂に来てみたら、菓子屋がほとんどないんです。住宅と神社仏閣があって、週末には観光客もいらっしゃる。そんな由緒ある町ですが、私たちも古くから和菓子をやってきたという自信があったので、思い切って本店を移しました。老舗が本拠地を変えるというのは本当に冒険なんですね。でも古い場所にこだわってダメになるという例もありますから、これからどんどん新しい店の形を創っていこうと思っているんです。

店舗は神楽坂らしい雰囲気を大切に。そして店の奥で和菓子を作るところをガラス越しに見ていただけるようになっています。うちはすべてこの場所でお菓子を作っているので、直販のフレッシュさがあると思います。また池袋時代に比べて、お菓子の品揃えもずいぶん変わりました。以前は日持ちのするお菓子が多かったんですが、今は定番商品以外で季節の生菓子が月に5〜6種類ほど、上生菓子は2週間に一度、種類を変えて6種類ほどお出ししています。


井上さんの修業時代を教えてください。

私の父である2代目が39歳という若さで亡くなったので、私も小さいうちから家の手伝いをしていたんです。小学校時代から学校へ行く前に店の掃除をしたり、忙しい時期はもちの配達をしたり。当時は遊び感覚もあって、楽しくやっていたと思います。

私は子どもの頃から手先が器用で、ものつくりが大好きでしたし、職人に憧れていたので、自然とこの世界へ入りました。高校時代は土日になると工場を手伝っていましたので、だいたいのことはできたんです。でも大学時代は油絵をやりたくて、朝9時から夜10時まで絵を描きっぱなしの4年間でした。卒業後は家の仕事に入りましたが、最初は二足のわらじを履くつもりだったんです。もっともすぐに忙しくなって和菓子一本になってしまいましたが。

井上豪さん 和菓子の味という点では、初代の祖父がいろいろと教えてくれました。うまくできれば「それでいいよ」とひと言、答えてくれる。これがひとつの基準を与えてくれました。また、うちの和菓子というのはかなり個性的なレシピだと思います。普通だと砂糖、小麦粉、水を使う生地に、一切、水を加えないとか、まんじゅうひとつ取っても配合が違う。それで、いわゆる基本の作り方を学ぼうと思って専門学校へ通いました。そこを踏まえておくと、なぜうちはこういう作り方をするのかを考えることができるんです。自分の店のやり方だけに固執しないで、基本に戻ることもできる。それが次に進む道に繋がる気がします。

そういった中で、私もずいぶん新作菓子を作ってきました。今、定番のお菓子として一番人気の「浮き雲」は何年も試作を重ね、完成までにはずいぶん材料をつぎ込みました。表面の粉糖が泣いてくるので(砂糖が溶けてべたべたになってしまうこと)それを抑えるために研究を重ねて。また祖父の代に揃えた木型がたくさん埋もれていたので、最近はそれを生かす形で上生菓子を作っています。戦前の木型職人たちが思いを込めて彫ったものですから、その気持ちを生かしたいと思っています。


神楽坂の「梅花亭」ならではの和菓子とは?

2代目の父が早く亡くなったこともあって、とにかく健康を考えて安心安全なものを食べていこうというのが私たちの考えなんです。ですから当然、和菓子の素材は選び抜いたものを使っています。

井上豪さん まず和菓子は餡が基本ですから、これはすべて手作りです。こし餡、つぶ餡は北海道産の小豆で。また最近、白餡は業者さんから購入するお店も多いようですが、うちは大福豆と手芒豆を4対6でブレンドして作っているんですね。大福豆は花豆に近いくらいおおきな豆で、ねっとりして味がいいんです。手芒豆は香りときめの細かさがあって、ふたつを組み合わせることで「梅花亭」の味になります。上生菓子はすべてこの白餡を使いますから、とてもおいしいですよ。この他、皮が固くて煮えづらい青えんどう豆でも餡を作っているんです。

 もうひとつの特徴はお菓子ごとに餡を炊き分けることです。大福用の餡、もなか用の餡、まんじゅう用、水ようかん用。火の加減、砂糖の割合などがすべて違う餡を全部で11種類以上炊いています。

井上豪さん また上生菓子に使う色素は全部、天然のものにしています。今だに和菓子屋さんは合成着色料を使う場合が多くて、微々たる量だから気にしなくてもいいと言うんです。でも私たちは細部にこだわりたいので、高価でも紅花やクチナシなどで着色します。もちろん大変な作業で、紅花などは手の熱が加わっただけで鮮やかな赤が黄色に変色するんです。ですから職人は手を水につけて冷やしながら菓子を作っています。

この他、波照間島産の黒糖や遺伝子組み換えの心配がない国産のきな粉、宮城県産のもち米「みやこがね」を使ったりと、常に素材の探求はしています。安心安全、見て楽しく、食べておいしいお菓子というコンセプトでやっていきたいと思っているんです。

ここ10年ほど、いろんな種類のお菓子を作り、かなり幅を広げてきたので、これからは厳選されたものを熟成させて、地に足のついた菓子作りをしていこうと思っています。神楽坂の味をどう作っていくかが、これからの私のテーマだと思っています。


過去のコンテンツ:2004年8月〜2006年12月まで、
活躍中の29名のパティシエ、パティシエールにご登場いただきました。

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