食べることがすごく好きな人間だったので自然と。最初は料理を勉強しようという気持ちをおぼろげに抱いていた時期もあったんです。でも、確かに料理もすごく魅力的だったんですけど、僕にとってはお菓子の方がより創造性が豊かで自由度があるように感じられた。料理の場合、魚を使えば魚の料理になるんですね。お菓子は、例えばショートケーキを作るのでもバターと小麦粉というまったく違った素材を組み合わせて作る。しかもバターは四角いし、小麦粉は粉。形の異なる別々の素材を組み合わせて、まったく新しいものができるというところが魅力的でした。
長島シェフのお菓子はチョコレートやキャラメルを多用されていますが、その理由はなんでしょう?
特に意識して多く使っているつもりはなかったんですけど、気がついたらチョコレートやキャラメルがショーケースの中にいっぱいになっていた(笑)。やはりふたつとも魅力的で、大事な素材です。というのもチョコレートやキャラメルはお菓子の材料の中で苦みと酸味を持っているということなんです。たとえばキャラメルというのは苦みに代表されるんですけど、材料は砂糖。甘い砂糖をこがしてゆくと苦くなり、酸味も感じる。面白い性格ですね。
お菓子を作るとき、甘さだけだと、どうしても味が一辺倒になってしまうんですけど、甘さをちょっと抑えて軽くして...ということを抜きにしてお菓子の味わいを追求したいんです。「お菓子が甘くなくておいしい」なんて、ちょっとがっかりしますよね(笑)。甘さの中に味がしっかり構築されていないと、ただ甘ったるいだけ、重たいだけになってしまうんですけど、そこにチョコレートやキャラメルを持ってくると味がしまります。
たとえば最近、金柑を使った新作「ラ・テール」(2月いっぱいまで販売)で、グランマニエをどぼどぼつぎ込んで(笑)糖度を低く作った金柑の自家製コンポートに、コーヒー風味のチョコレートクリームを組み合わせたお菓子を作ったんですが、ひとつひとつのパーツはかなり複雑にできています。しかし複数のものを混ぜて、全体としてまったりおいしいという味ではなく、金柑なら金柑のおいしさがずばっと味わえる。やはりそれぞれの素材がちゃんと主張してインパクトのあるものになっていないと面白くないし、僕の作るお菓子は、食べ終えた時に味の余韻が残るようなものでありたいです。
日本各地、そしてフランスで修行した経験を通して得たものとは?
最初はフランスへ行くことなど全然考えていなかったんです。ただ仕事を一生懸命にやっていると、それを達成した時、次に何をやりたいのかが見えてきますよね。僕は自分がやってきたお菓子の源流がどうなっているのか、つきつめたくなってフランスへ行きました。
最初はパリでいろいろ見てまわったんですが、修行したのは本当に様々な土地です。パリの郊外も行きましたし、スペインに近いところだったり、アルプスの山の中だったり。フランスはいろんな国と国境を接していて、イタリアやスペイン、ドイツの影響があったりするんですが、それぞれの地域のものがパリに集まって昇華してパリのお菓子になる。
「リュードパッシー」という店名は、パリ16区にあるパッシー通りというところから取ったのですが、その町が僕の伝えたいフランスの色を持っていたということもあるし、また同時に様々な土地で修行をしたことを自分のお菓子として表現しているという意味でもあります。やはり自分自身の哲学がないと、自分のお菓子というものは作れないですね。たとえば本当にスタンダードなお菓子、シュー皮にクリームをおさめてフォンダンをかけるだけでも、どんなシュー皮を使うのか、どれくらい焼き込むのか、クリームはどれくらいの味の濃さに調整するのか。フォンダンなら色の濃さやかける太さですよね。そういった所に作り手の哲学が出ると思います。